次期TAINS の紹介

佐伯田鶴
東北大学情報シナジーセンター

1 はじめに

 東北大学では,1988年(昭和63年)に,全国に先駆けて,全学的な学内LANであるTAINS (東北大学総合情報ネットワークシステム)の運用を開始しました。1995年(平成7年)には,幹線にATM方式を用いたSuperTAINS を整備し,その後も,1998年に幹線の一部にGbE(Gigabit Ethernet)を導入する等の拡充を行ってきました(図1)。

図1: SuperTAINS の構成図
 SuperTAINS は,マルチメディア対応の高速ネットワークであり,多くの大学構成員に利用されていますが,大学の情報基盤としてのネットワークがより効率よく有効に機能するためには,情報処理技術の進歩に応じて,常に最新の技術を導入し,ネットワークを整備してゆく必要があります。

 前号(SuperTAINS ニュース No.25)でお知らせしましたように[1]現在,次期TAINS の導入が行われています。ネットワークが大学のインフラストラクチャとして浸透し,以前にも増して教育・研究の場に不可欠になったこと,研究分野によってはより大量のデータや画像を超高速に伝送する必要性があること,等を鑑みて,今回のTAINS の整備では,最先端の技術を用いて,幹線ネットワークのさらなる高速化を図ることを主としました。

 本稿では,この次期TAINS の設計の考え方と構成について紹介します。

2 次期TAINS の設計

 次期TAINS の設計の際に,ポイントとなった考え方を以下に紹介します。

2.1 幹線から末端までの高速化

 次期TAINS では,最新のネットワーク技術による幹線から末端までの広帯域化をめざし,幹線ネットワークは8Gbps以上,インハウスネットワークの収容は1Gbps以上であることとしました。現在では,末端のパソコンでも100MbpsのNIC(Network Interface Card)がほぼ標準で塔載されるようになり,また,GbEのNICも目にするようになってきました。SuperTAINS では,末端の接続点の通信速度が100Mbps(FDDI)または156Mbps(ATM)ですので,今日では帯域不足の感があります。そこで,インハウスネットワークの収容は最低でも1Gbps以上とし,さらにインハウスネットワークをたばねる幹線ネットワークは,(仕様策定当時で最高速クラスの)8〜10Gbpsの帯域が必要である,と考えました。

 また,高速回線を使用する外部との研究プロジェクト(*1)にも対応できるよう,対外接続も,Gigabitクラスの帯域を確保することとしました。


(*1) 例えば,スーパーSINETという,最速10Gbpsの通信速度を持つ研究用ネットワークの構築が進められています。

2.2 幹線の通信方式

 Gigabitクラスのネットワークを実現するために,次期TAINS では,幹線ネットワークにGbEを採用しました。GbE は,Ethernetの新しい規格で,現在LANで広く使われている10Mbpsや100MbpsのEthernetとの親和性が高いことが特徴です。対応した製品も次々と発表されています。

 また,一部のキャンパス間は,OC-192cのPOS(Packet over SONET)という規格を用いて接続し,10Gbpsの通信速度を実現します。

2.3 インハウスネットワークの収容

 幹線ネットワークへの接続は,各インハウスネットワークのルータ(インハウスルータ)を用いて行います。インハウスネットワークの端末との接続は必ずこのルータを経由することとしました(パソコン等の端末を直接幹線ネットワークへ接続することは想定していません)。インハウスルータの収容ため,次期TAINS の幹線ではインハウスネットワーク収容サブネットを提供します。

 約7年前に最先端の技術を利用して導入されたSuperTAINS では,インハウスネットワークの収容にFDDIとATM が用いられています。しかし,技術の移り変わりの激しいネットワークの世界においては,技術の世代交代が進み,FDDIやATMに対応した機器の入手が困難となってきました。

 今回の整備では,各インハウスネットワークが,ATMとFDDIによるSuperTAINS から次期TAINS へ円滑に移行できることを重視し,インハウスネットワークの収容のために,GbEに加え,現在広く普及しているFast Ethernetも用意することとしました。利用者が特別な工事を行わなくても済むよう,各キャンパスの主要な建物に,GbEとFast Ethernetの両方の接続点を設置しました。接続点から先は,SuperTAINS のATMやFDDIで使っているものと同じ光ファイバでGbEの接続が可能です。

2.4 ネットワークへのアクセス手段の多様化

 学内のなるべく多くの場所からTAINS にアクセスできることをめざし,一部のキャンパスに,無線LANのアクセスポイントと情報コンセントを設けました。本学の敷地の広大さから,全キャンパスにこれらの設備を設置するには至りませんでしたが,TAINS を使用できる形態が増えることとなります。

2.5 光ファイバの有効活用

 本学では,各キャンパス間及び各キャンパス内に,自営の光ファイバを敷設しています。キャンパス間は10 しん のシングルモード光ファイバ,キャンパス内の配線にはマルチモード8芯,シングルモード16芯が敷設されています。これらの光ファイバは,主として1995年のSuperTAINS の構築の際に大幅に整備されました。これは,コンピュータやネットワーク機器と比較して,光ファイバは長期間使用でき,機器が変わってもファイバは同じものが利用可能であることを考えた上でのことでした。今回整備するTAINS では,既存の光ファイバを効率良く活用し,新たなファイバの敷設は一部のキャンパス内として最小限にとどめました。

 これらのファイバを有効に利用するために,キャンパス間では複数のGbEをたばねて 1本のファイバ上を伝送させる技術を導入しました。

2.6 セキュリティ

 昨今では,ネットワークの不正利用が大きな問題となっており,学内LANにおいてもセキュリティへの配慮が必要となっています。現時点では超高速ネットワークに適合するセキュリティ技術が未完成のため,今回のTAINS 整備では大幅な(全学的な)セキュリティ対策を講じるには至りませんでした。しかし,高速化に対応したセキュリティ対策の準備として,ゲートウェイとなるルータには高速通信下でもパケットフィルタリングをできる能力をもたせ,一部のネットワーク内でファイアウォールを試行的に運用する,等を行うこととしました。

3 次期TAINS のネットワーク構成

 本節では,次期TAINS のネットワーク構成の概要を紹介します。

3.1 全体の構成

 図2に,次期TAINS の構成を示します。

図2: 次期TAINS の構成図
 次期TAINS の幹線ネットワークでは,SuperTAINS と同様に,片平,川内,青葉山北,青葉山南,星陵,雨宮の各キャンパスが相互に接続されます。幹線ネットワークは,キャンパスの地理的配置及び光ファイバケーブルのルートに基づき,川内キャンパスを中心として,川内〜青葉山北〜青葉山南〜川内〜星陵〜片平〜川内の∞型のループ構造としました。

 キャンパス間通信のため,各キャンパスのノードには,ルータ(Backbone Router; 図2の「BR」)が設置されます。収容するインハウスネットワーク数の多いキャンパス(青葉山北,青葉山南,川内)には,サブノードを設け,ルータの配下にスイッチを設置します(Backbone Switch; 図2の「BS」)。図2の BR, CR, SW は,(BR, CRは 説明の都合上ルータと書いてありますが,)機器は Layer-3 スイッチです。

3.2 幹線ネットワーク

 各キャンパスのルータ間は,8本のGbEを多重化して接続されます。つまり,ルータから出た8本のGbE(1000BASE-SX)は,多重装置により,10Gbpsの規格に電気的に多重化され,論理的に1本の回線として,キャンパス間のシングルモード光ファイバを通して,他キャンパスのルータへ接続されます。SuperTAINS のようにフルメッシュの相互接続ではありませんが,各キャンパスは最低2つのキャンパスと接続されています。これにより,各キャンパス間の通信の負荷が他の区間に影響しにくくなり,また,停電等の他キャンパスのトラブルの影響を受けにくくなっています。

 青葉山北〜川内間は通信量が特に多いと予想され,また,ループの中心となる川内ルータのトラブルの影響を他へ及びにくくするため,青葉山北〜川内間にはルータをもう1組設置して,回線容量を大きくする(多重8Gbps×2)とともに,伝送路の二重化を行いました。

 各キャンパスのルータとサブノードのスイッチ間は,GbEの8多重,または 2本のGbEで接続されます。

 青葉山北〜片平間は,青葉山北に対外接続点が設置されていること,片平キャンパスでスーパーSINETの利用計画があること,等の理由により,大量の通信に対応できるよう,OC-192cのPOSを用いて10Gbpsで接続されます。

 表1に,次期TAINS 及び現行のSuperTAINS の幹線ネットワークの通信速度を示します。SuperTAINS と比較して,次期TAINS では,通信速度がほぼ一 けた 大きくなりました。幹線ネットワークの通信容量の点では,キャンパス間の隔たりを意識せずに使用していただけると思います。

表1:SuperTAINS と次期TAINS の幹線ネットワークの通信速度
  SuperTAINS 次期TAINS
キャンパス間ネットワーク ATM 622Mbps
GbE 1Gbps (*1)
GbE 多重8Gbps
一部区間 GbE 多重16Gbps
一部区間 OC-192c 10Gbps
キャンパス内ネットワーク ATM 156Mbps
FDDI 100Mbps (*2)
GbE 1Gbps (*3)
対外接続 FDDI 100Mbps (*2) GbE (複数)
(*1)1998年以降,ATMと併用。(*2)建物群数個ごとの合計容量。(*3)建物群1つの合計容量。

 次期TAINS とSuperTAINS は,青葉山北のルータにおいて,1Gbpsで相互接続されます。つまり,次期TAINS とSuperTAINS は一体化したものではなく,一箇所で相互接続された2つの独立したネットワークであるといえます。

 対外接続は青葉山北キャンパスのルータで行います。帯域は現在調整中ですが,高速回線を使用する研究プロジェクトにも対応できるよう,複数のGbEを使用して接続する予定です。

 SuperTAINS のキャンパス内ネットワークでは,キャンパス内の建物2-3個毎にFDDIループを構成していました。これに対し,次期TAINS の幹線ルータとスイッチからは,インハウスネットワークを収容するためのGbEがキャンパス内の各建物へ敷設されています。つまり,キャンパス内ネットワークは,幹線ルータを中心として,インハウスルータが放射状に接続するスター型の構成となります。FDDIによるリング型の構成に比べ,他の建物のトラブルの影響を受けにくくなります。

 なお,次期TAINS では,SuperTAINS と同様,幹線のプロトコルはTCP/IPのみとしました。その他のプロトコルは,代わりに,TCP/IP上で動作するもの (NetBIOS over TCP/IP)やIP Tunneling(AppleTalk)を使用することになります。

3.3 インハウスネットワーク

 各キャンパスの主要な建物には,上流のルータまたはスイッチから,GbE(1000Base-LX)が敷設され,また,インハウスネットワーク接続装置が1個ずつ設置されます(図3)。この装置は,GbE とFast Ethernet(100Base-TX)の変換アダプタとして使用されます。つまり,既存インハウスネットワークを,GbEかFast Ethernetで幹線ネットワークに接続することが可能です。

図3: インハウスネットワークの接続
 SuperTAINS から次期TAINS への移行は,基本的にサブネット毎の移行となります(*2)


(*2) 次期TAINS の稼働に伴なって,SuperTAINS がすぐに撤去されるようなことは,もちろんありません。しかしながら,SuperTAINS が導入されてすでに7年ほどが経っており,技術の移り変わりの激しいネットワークの世界においては,ATMやFDDIの機器の老朽化や供給の問題は避けて通れなくなりました。そのため,次期TAINS へのなるべく速やかな移行が望まれます。

 各インハウスネットワークのルータを次期TAINS へ接続するには,GbEモジュール(1000Base-LX)を用意しGbEで接続するか,インハウスネットワーク接続装置の100Base-TXポートを使用します。具体的な接続方法や注意事項については,次号以降に記事を掲載予定です。

 川内キャンパスでは,川内講義棟に情報コンセントと,講義棟の一部及び川内キャンパスの広場をカバーする無線LANのアクセスポイントを設置します。無線LANは,IEEE802.11bに準拠したWi-Fiに対応したもので,最大11Mbpsの通信速度を提供します。これらの接続手段は,川内キャンパスには,研究室に配属されていない学部学生や講義棟を利用しに来る教官等が多いことから,TAINS への接続の便宜を図ろうとするものです。情報コンセントと無線アクセスの運用方針については現在検討中です。

4 おわりに

 以上,次期TAINS の概要について紹介いたしました。今回の整備では,幹線の高速化を主としたため,末端のユーザの皆様の目に触れるような装置の導入や建物内の大掛かりな工事は行いませんでした。そのため,ユーザの皆様には,次期TAINS の存在は未だ感じられないかと思いますが,次期TAINS 始動の日はもうすぐです。次号以降で,SuperTAINS から次期TAINS への具体的な移行の方法,注意事項等を紹介していきますので,末端までGigabitの通信速度を持つ次期TAINS を是非ご利用下さい。

 今回のTAINS の仕様策定では,TAINS 整備仕様策定委員会(委員長:白鳥則郎教授)並びにTAINS 仕様策定ワーキンググループの皆様に,長期に渡り,次期TAINS の設計に取り組んでいただきました。また,実際の導入に至る種々の運用方針や設定の検討には,学内の多くの皆様のご協力をいただいております。この場をお借りしまして,厚く御礼申し上げます。

参考文献

[1] 曽根秀昭,次世代のSuperTAINS へ向けて,SuperTAINS ニュース,No.25,pp.3-4,2001(http://www.tains.tohoku.ac.jp/news/index-j.html