東北大学インターネットスクール(ISTU)
--- インターネットを用いた大学院教育 ---

東北大学大学院教育情報学研究部 三石大
渡部信一

1 ISTUのシンボルマーク


図1:ISTUのシンボルマーク
 ISTUのシンボルマーク(図1)は「烽火(のろし)」をイメージしております。烽火は人類がまだ今日のような通信メディアをもたなかった時代の情報伝達方法のひとつ。インターネットの歴史をさかのぼっていけば,必ずこの烽火にぶつかるというわけです。先進の情報技術を駆使しながら,つねに「情報とは何か?」「どのように情報を伝えるべきか?」を原点に戻って検討し続けていく意志を,このシンボルに表しました。

2 ISTUの役割 --- 開学の理念をIT時代に再構築

 ISTUの果たすべき役割は,IT時代の新しい教育の実施にあり,これは,長い歴史と伝統に培われてきた本学開学の理念を,IT時代に再構築しようとするものです。具体的な役割は多岐にわたりますが,以下に,その主な内容を紹介します。

2.1 インターネットを介した講義配信

 ISTUのもっとも大きな役割のひとつに,インターネットを介した東北大学大学院の講義配信があります。2002年4月からインターネット上での講義配信の試行を開始しており,10月からは工学研究科などで大学院前期および後期課程で専門コースを開講する予定となっています。さらに,2007年までに14の大学院研究科等で講義科目の40%を開講することが目標として掲げられています。

 ISTUにより配信される講義の受講生は,東北大学の正規学生であり,東北大学大学院生,もしくは科目等履修生となります。近い将来,修士号や博士号の取得も可能になる予定です。これにより,大学へ通うことができない社会人や遠隔地に住む人でも,無理なく専門知識を学ぶことができるようになります。また,通学生も,一部の単位をインターネット講義で取得するシステムも今後の検討課題となっています。つまり,東北大学で学ぼうとする者に対しては,それぞれの動機や学習事情に応じて,IT時代にふさわしい学習の機会を与えるということであります。

 さらにISTUは,日本国内のみならず,全世界を視野に入れ,最先端の研究成果を世界に発信することとなっています。数年後には,全世界どこからでも東北大学の正規学生としてインターネット講義を受けることが可能になります。 

2.2 国内外の大学との連携

 大学の基本機能である学術研究は,今後ますますネットワーク化していくと考えられます。ISTUでは,専門分野の枠にとらわれないシームレスな研究活動を教育面からサポートすることもその目的のひとつとなっています。国内はもちろん,海外の大学との連携も強化し,より効果的な教育を実現します。

 また,大学と企業によるコンソーシアムづくりも推進し,研究成果の事業化にも積極的に取り組んでいきます。教育システムはインターネットがメインですが,全国各地にサテライトスクールを展開していく計画もあります。

2.3 「知」のアーカイブ事業

 インターネットスクールの目的のひとつに,知的資源のアーカイブ事業があります。ISTUのコンテンツ開発は,結果的に,大学内に蓄積された膨大な知的資源をデジタルデータとして標準フォーマットで保存管理していくことを意味します。長い年月をかけて蓄積された価値ある研究成果を人類の資産として再構築していくことも,ISTUの果たすべく重要な役割のひとつです。

2.4 ネット開放講座

 これまで市民に向けて大学教育開放講座を実施してきた東北大学大学院教育学研究科附属大学教育開放センターは,平成14年3月31日をもって廃止となりましたが,かわりに,平成14年4月1日に新しく設置された東北大学大学院教育情報学研究部内に,大学教育開放論研究部門として生まれ変わりました。大学教育開放講座は,この大学教育開放論研究部門により引き継がれます。

 さらに,この大学教育開放講座は,ISTUを通じた「ネット開放講座」として拡大します。ネット開放講座では,大学教育開放講座を収録し,これをインターネットを通じてオンラインでも受講できるようにするものです。単に収録映像を配信するだけでなく,講義内容の詳細をわかりやすく伝えるために,専用のシステムを独自開発しています。

3 ISTUのオンウェブ授業の目指すもの

 ISTUの大きな役割のひとつであるインターネットを介した講義配信は,IT時代の大学の新しい講義形態となります。この新しい講義形態は,技術の進歩にともない様々な可能性を秘めたものでありますが,ISTUでは,まず,次のような講義形態を目指しています。

3.1 リアルな授業を再現する動画メインの講義配信

 ISTUでは,「リアリティのある講義」をテーマに,講義やゼミの臨場感をそのままに伝える動画をメインとする講義の配信を行います。

 世界には優れたオンライン教育の事例が数多くあります。しかし,多くは文章と静止画像がメインで,講義の臨場感やコミュニケーションに乏しい印象がありました。しかしながら,教官の表情や実験室の雰囲気など,テキストになりにくい情報も貴重な教育資源であり,これを学生に伝えることも重要な要素となります。

 ISTUでの受講方法は,インターネットのブラウザからとなりますが,大講義室の熱のこもった講義や,ゼミでの白熱する討論の臨場感をそのままに伝えるために,動画をメインとした講義配信を行い,ブロードバンド時代の先導的教育事例を蓄積します。

3.2 教官の顔が見える多彩な学習コンテンツ

 これからの大学は,講義の中身で選ばれる時代を迎えます。ISTUでは,動画のみならず多様なメディアを活用し,教官の顔が見える多彩な学習コンテンツを提供します。

 ISTUでは,各科目のシラバスや学習コンテンツは,原則として担当教官が独自に開発します。これにより,各教官の研究内容や教育方針が色濃く反映するユニークなコンテンツがISTUの魅力のひとつとなります。加えて,ISTUは東北大学の文系,理工系,医学系全14研究科,研究所やセンター等の正規の大学院よりなります。単位や学位の認定も,各研究科や担当教官の個別の方針で行われます。研究科により,スクーリングやその他の授業などが 必須 ひっす となる場合もあります。

 このような,ISTUによる魅力ある講義を提供するためには,あらゆる分野,専門領域の各教官ごとの教育手法をサポートし,質問や個別指導など,学習課程におけるコミュニケーションも,通常の授業と比べて 遜色 そんしょく がないか,あるいは,より活発化するための仕組みが必要となります。そのために現在,高品質な実験映像などを配信するストリーミングシステム,さらにウェブミーティングや資料の配信・検索管理機能などを統合し,多様なメディアを活用した先進のe-Learningシステムの開発を進めています。

3.3 ライフスタイルに応じて受講が可能

 ISTUでは,「いつでも」「どこでも」講義を受講可能な,ライフスタイルに応じた学習ができるシステムを提供します。

 ISTUは,有職成人のさらなる学習,家庭の主婦等の生涯学習,さらには,遠隔地に住む学生の学習を前提とした教育システムを構築しています。家庭や職場から,働きながら学ぶには,強固な意志と周囲の協力が必要となりますが,何よりもシラバスや学習システムがそれに対応していなければなりません。ISTUは「いつでも」「どこでも」学習が可能な有職成人ばかりでなく,主婦や遠隔地に住む学生にも教育の門戸を開放します。また,東北大学に通学する大学院生も,一部の単位をインターネットで取得できるなど,ライフスタイルに応じた受講が可能になります。

 いつでも,何度でも繰り返し受講が可能な「オンデマンド型」,小規模ゼミのように教官と学生が積極的に意見を交わせる「リアルタイム型」の2種類の講義配信方法を用意するとともに,インターネットを介した履修登録などオンラインでの履修管理システムなどを整備し,それぞれのライフスタイルに応じた学習ができるシステムを目指しています。

4 ISTUの運営 --- 情報基盤,教育情報学それぞれの専門家集団による運営支援

 全研究科と附置研究所および研究センターよりなる全学組織であるISTU審議会がISTUの運営の責任母体となっていますが,教育プログラムの提供,履修管理,単位認定や学位授与等の学務管理は,当該の研究科の責任で行います。これに加えて,教育情報学研究部と情報シナジーセンターが協力し,その支援の任にあたります(図2)。


図2:ISTUの組織構成
 情報シナジーセンターは,学内情報ネットワークTAINS の運用や大型計算機環境の提供,情報教育環境の提供など,既に全学のあらゆる部分で御活躍いただいているところでありますが,ISTUも,情報通信インフラの整備をはじめ,全面的技術支援を受けることになっております。

 教育情報学研究部の方は,本年度開設された新しい大学院です。東北大学では,2002年に,教育情報学を専門分野とする新たな大学院である教育情報学研究部・教育部を開設しました。これについては広報 NO.210, 31 May, 2002, 「教育情報学教育部・教育情報学研究部の新設」を御参照ください。教育の専門家をコアに,認知科学,教育工学,情報工学,比較教育論など異分野のコラボレーションで,IT時代の教育手法の研究およびIT教育のスペシャリストを育成することが,その任務となっています。さらに,教育情報学研究部は,その研究成果として得られる教育情報学のノウハウに基づき,ISTUにおけるIT教育の支援を行っていくことになります。教育情報学研究部・教育部について詳しくは,またの機会にご紹介させて頂きたいと思います。

 ISTU審議会に加え,技術面,IT教育面に関して情報シナジーセンターと協力し,我々教育情報学研究部が支援にあたることにより,全学のISTUの運営をより確固たるものとしたいと考えております。ISTUはIT時代に対応した新しい教育形態を開拓する試みであり,全学的な取り組みは国内はもちろん世界的にも類をみないものです。各先生方の今後の積極的なご参加をどうぞよろしくお願い申し上げます。