TAINS からのインターネットの利用

-- インターネットはなぜ遅い --

総合情報システム運用センター 曽根 秀昭
sone@tains.tohoku.ac.jp
仙台電波工業高等専門学校 脇山 俊一郎
wakiyama@topic.ad.jp

1 TAINS のインターネット接続

 TAINS をお使いの皆さんは,ほぼ例外なく,インターネットによる WWW や電子メールをお使いになっていることと思います。TAINS に接続したコンピュータがどうやってインターネットと通信できるのかについては, SuperTAINS ニュース No.9 [1] でお話しました。
 ところが,最近では,実際に使っていると,WWW の表示が遅いとか,電子メールが 何日か遅れて届くというような状態になって,困っている方も多いかと思います。 今回は,この問題について,TAINS からインターネットを利用する場合の事情を お話します。


図 1: インターネット接続の概略図

 図 1 は,東北大学のTAINS がインターネットへ接続されている様子を概念的に 表わしたものです。図にあるように,東北大学のTAINS はTOPIC(東北学術研究インターネットコミュニティ)の運用するインターネットに 接続しています。TOPIC には東北地方の大学・高専などが参加・接続しているので,これを経由して, それらとの間で通信することができます。
 図では,TOPICとSINET(学術情報ネットワークバックボーン)が接続しています。 SINETのバックボーン(全国にわたる幹線ネットワーク)を利用する,TOPICと同様の 学術系地域ネットワークは,個別にSINETの接続拠点(ノード)で接続し,SINET を経由して通信しています。インターネットでは,隣接のネットワークに接続した 組織とも通信できるので,国内の大学・高専と,SINETおよび先方の地域ネットワークを 経て,通信できます。同様にして,SINETを経由して,国内および海外の インターネットへと通信範囲が伸びています。

2 ISP間の通信とIXP

 インターネットの世界では,TOPICやSINETのように大学などの学術機関を 接続するためのネットワークだけでなく,企業や個人へのインターネットサービスを 提供するプロバイダ(ISP (*1))が数多くあり, それぞれのISPが運用するネットワークが互いに接続されて, 大きなインターネットの世界を構成しています。 この場合に,TOPICやSINETも,ひとつのISPであるととらえることができます。
 直接に接続していないISPの間の通信でもっとも重要な問題は,経路を どうするかということです。離れている二つのISPの間で通信するときには, 途中で第三者のISPのネットワークに中継してもらい,そちらの通信回線を通過します。 ここで,どのISPとの間に通信回線を設けるか,あるいは,どことどこの間の通信を 中継してあげるのかという問題が出てきます。これらの問題を数多くのISP が 個別に扱っていたのでは効率が悪く,また,中継するための専用のネットワークが 運用されていれば問題が解決すると考えられますから, インターネット相互接続ポイント(IXP (*2)) が設けられています。
 日本における主要なIXPには,WIDE プロジェクトが実験的に運用しているNSPIXP (NSPIXP1, NSPIXP2) などがあり,さらに多くのIXPが計画されています。また, 全国規模あるいは世界規模の中継を処理するのではなく,地域的に閉じた範囲で 終始する通信だけをローカルに扱おうという考え方があり, これは地域IXと呼ばれます。 日本の代表的な地域IX には,東北地方でTOPICなどが運用している 東北地域内インターネット相互接続実験(TRIX) [2] があります。
 NSPIXPの例では,NSPIXPに接続しているISPの間の通信は,NSPIXP において処理されます。 IXPに接続していないISPの間の通信は,IXP 以外の場で個別の相互接続を設けるか, または,第三者のISPに依頼して中継してもらうことになります。

3 SINETとIXP


図 2: SINETと国内外のインターネットとの接続

 現在の時点でのSINETの周りの接続の様子を概念的に,図 2 に表しました。 いまのところ,SINETはIXPとの接続を持っていません。SINETは商用ISPなどと 相互接続するために,対外接続用の接続拠点を設けて,JIXと名付けています。 JIXには,SINETとの相互接続を希望するISP(図中のISP1, 2, 3)が接続してきています。 そのうちのいくつかのISPは,他のISPへの通信を中継しています (図中のISP1からISP4への通信)。 そのほかに,SINETはWIDEインターネットとの接続をもっており,これを経由して NSPIXPにも到達でき,従って,NSPIXPに接続するISP(ISP5, 6)とも通信できます。
 海外との通信について,SINETはアメリカ,イギリス,およびタイとの間に 通信回線を設けています。さらに,接続している海外のISP (図中のUS ISP1) を経て, 世界中のISPとも通信することができ,これによって,東北大学なども インターネットで世界中と通信できるようになっています。

4 なぜ遅いのか

 通信できる経路が存在しても,それで通信が実用的に利用できるとは限りません。 通信回線には通信容量があり,それを超えた需要がある場合には, 溢れた分を運ぶことができず,通信できなくなります。インターネットの TCP/IP通信方式は通信回線の溢れに対して備えがあり,相手方に届かなかった通信が あった場合にはそれを検出して,再度,送り出すことにより, 完全な通信を期しています。 ただし,通信回線の混雑が甚だしい場合には,何度送り直しても届かないこともあり, かえって,再送する通信が回線の混雑に拍車をかけることにもなります。
 したがって,インターネットでは,通信量に応じた通信回線が用意されていることが 望まれます。しかし,通信容量は回線のコストに響き,また, 通信容量に余裕がある限り通信需要が増え続けるのが現実です。 このため,インターネットでは,どうしても混雑が起こりがちです。
 TAINS からインターネットを利用する場合に,混雑がひどいのは,最近の状況では, 図 2 におけるSINETとWIDEの間,WIDEとNSPIXPの間,および,SINETからアメリカへの 海外回線と,アメリカ側のISP内部であるように見受けられます。SINETのJIX へ接続するISP(1,2,3) との間では,ときどき利用状況によって,混雑が起きる ようです。
 この混雑の状況のために,JIXへの接続をもたないISPとの通信が影響を受けています。 すなわち,図 2 のISP5などに接続する企業や,海外との間の通信では極端に 遅くなったり途切れるトラブルが起きています。その結果として, WWWを利用していると,表示が済むまでに長時間がかかったり, 写真が途中まで出て途切れるようなことも起きます。電子メールの場合には, コンピュータのメールシステム同士がメールをやり取りするときに時間が かかり過ぎたり,途中で接続が途切れるために,メールシステムが処理を 中断することがあります。その場合にも自動的に,しばらく待ってから 再試行しますから,途中までの半端な電子メールが届くことはありませんが, なんどか再試行して成功するまでメールシステム内部に留め置かれるために, 数時間ないし数日の遅れが生じることもあります。
 なお,アメリカへの海外回線の容量が極端に不足した状況が続いていましたが, 1997 年10月からかなりの増強がなされました。しかし需要ははるかに多く, 混雑が緩和された実感はそれほどでもないようです。むしろ,増強された分だけの 通信量がSINETのバックボーンでも増加したので,国内の大学などとの間の通信でも 混雑が感じられるようになった現象もあります。

5 対策

5.1 バックボーン接続の増強

 インターネットの混雑によるトラブルを,ネットワークの末端に位置する ユーザが解消することは困難です。基本的には,ネットワークを運用しているISP が通信の需要に見合った整備をするのが,トラブルの解決につながります。このISP には,TOPICやSINETも含みます。しかし,現状の通信容量は需要に比べて極端に 不足しており,また,現在の混雑を解消すると別のポイントへ混雑が移りますから, 短期間で画期的に解決されることを期待するのは無理と言えます。 SINETを運用している学術情報センターでは色々な方法による解決を考えている ようです。例えば,JIXへの接続の促進,IXPへの接続,海外回線の さらなる増強などの可能性があるかと思われます。


図 3: 東北地域内インターネット相互接続実験(TRIX)ネットワーク接続図

5.2 地域IX

 地域的な通信に限定すれば,前述した地域IXのTRIXの発展により次第に解決して 行くと期待できます。TRIXはIXの地域分散化の問題について,地域IXを運用して 実証的に研究を行っているグループです [2]。 TRIXではNSPIXPなどと同様に,そこに接続しているISPの間の通信を相互に中継します。 その接続図を図 3 に示します。TOPICは,TRIXとの接続がありますから,TRIXに 参加する地域ISP (図中のTiAなど)との間の通信は,SINETを経由することなく, ローカルに処理が済みます。このために,TOPICと他のISPの間の通信では, TRIXを利用しない場合と比較して,遅延時間とパケット損失率が大幅に改善されて, 快適な応答特性が安定して得られています。
 TRIXの実験データによると,現時点では,地域内の通信は,組織間でネットワーク ニュースを中継するNNTPの通信量が8割ほどを占めています。それを除いた人手による 通信については,TOPICと各商用ISPとの間の通信量が多く,地域内の情報交換では 地域住民と学術研究機関との情報交換がその主な利用方法であると言えます。 今後,TRIXによって地域内の情報流通が促進され,相互接続された ネットワーク組織間の情報交換が増加すると期待されます。

5.3 インターネットプロキシサーバの利用

 通信回線の混雑は,例えばSINETからWIDEを経てNSPIXPへ至る部分をみると, SINETへの向きの混雑がひどいように見受けられます。これは,SINETを経由して 商用ISPとの間で通信する内容の中に,WWW の利用が多いのではないかと思われます。 商用ISPにある企業や個人のウェブページを大学などでみる場合に, 表示データを取り寄せるためのリクエストの電文は短いのに対して, データはずっと大きいのが普通です。 そのために,表示データが流れる向きの混雑がひどくなりがちです。
 WWWの利用によるインターネットの混雑は,末端のユーザでも解決に寄与することが できます。WWWの人気ページなどは,多くの人が何回もデータを取り寄せるので, 同じ通信回線を同じデータが何回も流れることになり,非効率的です。 これを解決する方法として,WWW のキャッシュ(cache)サーバという技術が あります [3]。 これは,ユーザの使っているコンピュータが直接に先方からデータを 取り寄せるのではなく,キャッシュサーバにリクエストを出して,キャッシュサーバが データを取り寄せて取り次ぐものです。このときにキャッシュサーバは 取り寄せたデータの写しをとっておき,すぐあとに同じリクエストが来たなら, 持っている写しのデータを配ります。この機能によって,2回目以降は インターネットの通信回線に負担をかけずに済み,また,近くの キャッシュサーバから取り寄せれば済むので表示が速くなるメリットもあります。 代理で取り寄せるので,プロクシ(proxy)サーバと言うこともあります。 これをつかうには,WWWブラウザ(Netscape や Internet Explorer など)の 「プロクシ」などの設定を行います [4]。

参考文献

[1] 総合情報システム運用センター: ``TAINSのインターネット接続の構成'', SuperTAINS ニュース, No. 9, pp. 24--28 (1996, 10). (http://www.tohoku.ac.jp/TAINS/news/st-news-9/2428.html)
[2] 「東北地域内インターネット相互接続実験(TRIX)」のホームページ, http://www.tia.ad.jp/trix/
[3] TAINS 利用研究会cacheグループ: ``TAINS 内 Parent Cache Server実験開始の お知らせ'', SuperTAINSニュース, No. 10, pp. 57--59 (1997, 1). (http://www.tohoku.ac.jp/TAINS/news/st-news-10/5759.html)
[4] TAINS利用研究会cacheグループ: ``WWW の proxy の推奨設定について'', SuperTAINS ニュース, No. 13, pp. 4--5 (1997, 11). (http://www.tohoku.ac.jp/TAINS/news/st-news-13/0405.html)

[注釈]
*1 Internet Service Provider
*2 Internet Exchange Point


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