機械・知能系 事務情報システムの紹介

大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻 高橋 隆行
大学院工学研究科 機械・知能系情報機器室 松川 卓二

1 はじめに

 工学研究科機械・知能系では,1997年10月15日より事務情報システムの運用を開始しています。機械・知能系に所属するのは,学生約1300名,教職員約300名。系ひとつで小規模大学程度の人員を抱えています。この大所帯にあってこのシステムは,機械・知能系事務室と教職員,学生の間の情報のやりとりを電子的に行うことを目的に開発しているもので,守備範囲は教務,庶務,会計業務全般にわたります。学生への情報サービスは未だ整備していないものの,運用開始以来,少しずつ新たな機能を追加し着実に発展してきています。本稿では,このシステムの開発経緯と,現在の運用状況についてご紹介します。

2 開発に至る経緯

 この事務情報システムは,工学部が5系体制に移行するにあたり,(1)機械・知能系が地理的に若干離れた場所にある不便さを解消すること,(2)増大する事務作業の効率化を図ること等を背景に開発構想が持ち上がりました。元々は,教務事務を電算化することを主眼におき,1993年(平成5年)末に機械・知能系教務電算化小委員会が組織されました。当時の機械・知能系の情報化のレベルを一言で表現するとすれば,まだ電子メールを全教職員が使用していると仮定することは到底無理というような状況でした。

 機械・知能系教務電算化小委員会の最初の業務は,どのようなシステムにするのがもっとも良いかという点に関して結論を出すことであり,全く手探りの状態から出発致しました。まず他大学での例を調査してみると,当時,この分野で先進的であったのは会津大学でした。ここでは,事務系,研究系,教育系の3つの独立なFDDIリングが用意され,証明書発行や成績報告,休講通知,時間割り管理,学生呼出し,図書館の利用など,開学当初からネットワーク化された総合的な情報システムが整備されていました(開発は(株)リコー)。

 このシステムはひとつの理想形として魅力あるものであり,小委員会としてもこれをベースに機械・知能系に合うように修正して導入する方向で検討を行っていました。しかし,同様のものを外部発注という形で機械・知能系に一気に導入するにはいくつかの問題がありました。

 そのもっとも大きなものは,現状の事務作業手法とのギャップでした。長い歴史を持つ本学の場合,事務手続きは手作業を前提にして既に確立されており,これを単純に電算化することには例外処理の多さも含め相当の無理がありました。また逆に電算化を理想的な形で強力に押し進めるためには,事務作業の方法を根本から見直す程の改革が必要であり,工学部や全学を巻き込んだ総合的かつ膨大な作業を覚悟しなければならないことは明白でした。これは,限られた時間内に,発注に必要な仕様書を策定することができないということを意味していました。

 また,教務事務作業(特に成績関係)を電算化するために必要な基礎データが未整備である点やデータフローの非効率さも問題となりました。例えば,

  1. 工学部学生には他系の科目を履修することが認められているが,授業コードはそれぞれの系・学科が独自に決めており,また担当する教官コードも統一されていないなど,成績の電算処理を行う前に,相当量の手作業による前処理を覚悟する必要があった。
  2. 例えば学生便覧に記載されている外国語教育科目の履修方法が適切に行われているか否かをチェックするためには,国籍以外にも母国語に関する情報が必要であるが,この情報を有するデータベースが学内のいずれの部署にも存在しない等,電算処理に必要な情報が一部不足していた。
  3. 工学部教務ではOCRシートによる成績提出を義務づけていた。したがって,系内で成績をオンライン入力しても,それを再度OCRシートにプリント出力して提出しなければならない等,オンライン入力による効率化は期待薄であった。
などです。

 それ以外にも,卒業までの間に何回かある成績処理(進級判定や飛び級判定等)の方法が比較的短い年度周期で変更されること,カリキュラム再編の際に発生する単位の読み替え等の処理が,特に過年度学生で複雑になること,なども問題となりました。

 このような状況の下,1994年(平成6年)4月に機械・知能系情報機器室が設置され専属職員(助手)が採用されたのを機会に,目的のシステムを独自にかつ徐々に構築する案が急浮上してきました。この時点から,教務だけでなく系全体の将来の情報化を視野に入れた構想が少しずつ議論されるようになります。そして,1997年(平成9年)1月に,東北大学より機械・知能系事務情報システム構築のための予算が交付され,この構想が一気に具体化することとなります。委員会の名称も教務電算化から事務情報化に改められ,同年の9月22日にはシステムのテスト運用を開始し,10月15日より本運用が開始され,その後,いくつかの機能拡張を経て今日に至っています。

3 現在のシステムの状況

 機械・知能系事務情報システムを通常のWEBブラウザでアクセスすると,パスワードによる個人認証の後,図1のような画面が表示されます。パスワードを含め全ての通信は暗号通信技術を用いて安全にやりとりされ,大切な情報を不正な盗聴や改 ざん などから保護しています。以下,ここから利用できるさまざまな機能の現在の状況について,主としてユーザサイドの視点からご紹介をしたいと思います。


図 1: 事務情報システムの初期画面

3.1 事務室からの各種情報

 図2に,事務室からの各種お知らせの表示メニューを示します。ここでは,学生名簿のデータファイルや発表会の日程,各種書類の書き方の見本や注意事項等を見ることができます。これまで電話で問い合わせされることの多かった情報のいくつかをここに掲載することにより,事務室の負担を軽減すると共に,教職員の利便性の向上を実現しています。また,各種委員会等で決定した駐車方法やごみ廃棄の方法など,学科ないし系の共通ルールもここに掲示することにより,いつでも最新のルールを参照できます。


図 2: 事務室のページ

3.2 お知らせ

 これまでコピーで各講座等へ配布していた各種お知らせは,現在ではほとんど事務情報システムを利用して周知されるようになりました(図3)。事務室では,図4の画面を使って入力を行います。紙で送られてきたお知らせ等はまずスキャナで読み取り,これにいくつかの情報を付け加えて登録します。ここでは,例えば教授だけ閲覧可といった閲覧範囲を指定することが可能です。閲覧権限のないユーザの画面には,該当するお知らせに関する情報は一切表示されません。この閲覧範囲の制御には,後述する名簿情報と,パーソナルアシスタント設定機能により指定された情報が利用されます。

 パーソナルアシスタントとは,例えば秘書が教授の代りに書類等に目を通すことなどを行うために用意されている機能です。秘書は原則的には,閲覧範囲を教授のみに指定されたお知らせを見ることはできません。しかし,教授が秘書を自分のパーソナルアシスタントとして指定した場合には閲覧することが可能になります。現在,このパーソナルアシスタント機能は,(1)部屋(会議室・ゼミ室)予約,(2)名簿情報の変更・修正,(3)題目登録,(4)お知らせの閲覧のそれぞれについて,個別に設定することができるようになっています。

 またユーザは個々のお知らせについて,個人毎のブックマークを設定することができます。後で参照するために保存しておきたい情報にマークをつけておくことで,その情報のみを簡単に一覧することが可能です。

 これ以外にも,係毎の分類での表示,締切が迫っているものの表示,助成金の みの表示など,これまで個人で分類し保存しておかなければならなかった書類 を,便利にオンライン参照できるような機能を実現しています。


図 3: お知らせメニュー


図 4: 事務室でのお知らせ入力画面

3.3 部屋予約

 このサービスが開始されるまでは事務室に備え付けの予約簿に氏名や研究室名を書き込むことで部屋の予約を行っていましたが,現在は自分のコンピュータからオンラインで予約・確認ができるようになりました。委員会や学会研究会のスケジューリング作業の省力化に効果が高く,大変人気のあるサービスとなっています。

3.4 書留郵便や宅配便到着のお知らせ

 書留や宅配便が事務室に届けられた場合には,その講座に所属する全ての人の初期画面に,荷物等の到着を知らせるメッセージが表示されるようになっています。このお知らせは名簿データに基づいて講座単位で機能するため,講座のだれかが受取りのチェックを入れることで,受け取りが完了したものとして処理されます。

3.5 名簿

 このシステムには,機械・知能系の全教職員の名簿データが登録されています。しかも役職と所属以外は自分(および指定したパーソナルアシスタント)で修正できるようになっているので,常に最新の情報に保つことが(原理的には)可能です。検索機能もついているので,居室や電話番号を確認する際にはとても便利に使えます。また,系内の主要なメーリングリスト(例えば機械知能工学専攻の教授のみ等)は,この名簿データから自動抽出されて作成されています。さらにこの情報は,システム内における各種アクセス管理にも利用されており,本システムの重要基本データのひとつとなっています。

3.6 メールアーカイブ

 機械系では,教官会議の報告事項は,事前にメーリングリストに流しておくことで会議時間の短縮を図ろうとしています。またそこには,各種委員会からの報告事項も流されます。これらの情報は,機械系の運営にとって重要なものが多く,連番を振った上でシステム上に保存し,アクセス権限の範囲内でいつでも参照できるようになっています。

 このシステムが整備されたおかげで,例えば『教官会議メーリングリストの1234番のメールでお知らせしたように』などと書けるようになりました。

3.7 その他の機能

 ここ数年,学位論文や卒業研修題目の登録に,本システムを利用するようになってきました。個人認証ベースでアクセス制限をかけられるので,誤って他の研究室の学生のデータを壊す心配もなく,安全に信頼性の高い電子データを収集することが可能になっています。従来の紙によるやりとりでは,入力作業もさることながら,校正や変更などを処理するために膨大な労力が必要でしたが,大きな省力化の効果を挙げています。

4 多くの人のサポートがあればこそ

 本システムの開発は,機械・知能系情報機器室を中心に,機械・知能系情報化委員会および機械・知能系事務情報化小委員会(現在は機械・知能系情報システム小委員会)で行っています。

 しかし,本システムがここまで順調に発展してきているのは,このシステムの利便性を理解し,協力をしてくださるユーザはじめ多くの方々のサポートがあればこそです。

 特に,情報を発信する機械・知能系事務室の職員の皆さんのご協力は,他に代えがたいものがあります。このシステムが運用を開始した直後は,データをシステムに登録する作業とコピーして配布する作業の両方を行わなければならず,作業量が2倍になる時期もありました。また,システムをアクセスしていない方から「情報を知らされていない」と怒鳴られたこともあったと伺っています。そのような苦難困難にも関わらず,辛抱強くご協力いただいたことに,本当に心から感謝を申し上げたいと思います。

5 今後の発展について

 以上,機械・知能系の事務情報システムについてご紹介してきましたが,これはまだ発展段階にあります。例えば,当初の目的であった教務関連業務の電算化は基礎的なレベルにあります。また,回答が必要な処理はまだオンライン化されておらず,多くの場合,印刷して書き込んだ上で事務室に提出しなければなりません。さらに,お知らせなどの大部分は,いったん事務室でスキャナで読み込まなくてはなりません。

 しかし昨年,工学部/工学研究科で同様のシステムが機械・知能系のシステムをベースに開発されることが決まり,2001年5月の運用開始を目指して2000年3月より実際の構築作業が開始されました。機械・知能系の上流情報源である工学部で同様のシステムが稼働することで,教務関連も含めて大幅な利便性の向上が期待できます。なぜなら,情報の電子化は,一連の流れの全てが電子化されて初めて大きな効果を挙げるものであるからです。

 最近では,『こんな機能を実現して欲しい』というような,ユーザからの建設的な提案も聞かれるようになりましたが,その一方で,事務情報システムのアクセスログを解析してみると1週間の間に一度もシステムにアクセスしていない研究室がまだあるなど,別の問題も残っています。例えば重要なお知らせを登録したような場合には,事務室からその旨を電子メールで流して注意を促す等,運用面での努力も今後ますます必要になってくるものと思います。

 近年,全国の大学でキャンパスの電子情報化を行う活動が活発になってきています。例えば,早稲田大学は1997年から9カ年計画で、研究教育環境の情報化推進プログラムを開始しましたし,他の多くの大学でも同様の計画を策定中もしくは進行中との情報があります。

 現在,教職員・学生の多くが携帯電話を所有しています。また,携帯電話以外にも様々な携帯端末が提案されています。これらは本システムの構想立案時(1994年当時)には想定していなかったことです。今後は,このような携帯端末を考慮に入れた情報サービスが極めて重要になってくるものと思います。

追記

 筆者の一人(高橋)は,本稿執筆時点で既に本システム担当の委員会所属ではありませんが,構想段階から昨年まで深く関わってきた関係で,本システムのご紹介をさせていただきました。