SuperTAINS デモンストレーションの技術報告

情報科学関係デモ・グループ
 本稿では,2月28日 および 3月1日 に行われた SuperTAINS デモンストレーション から,いくつかの項目を取りあげて技術報告をします。

1.テレビ会議

 情報科学研究科の有志グループでは, 普通のワークステーションに,比較的安価な周辺 装置を付加する,という構成で, 身近で実現できるテレビ会議システムを構築しました。 今回のデモでは,学内4ヶ所に表2 に示す機器を 1セットずつ用意し, SuperTAINS の ATM網で接続しました。

表1:テレビ会議 参加地点

北青葉山 大型計算機センター(デモ会場)
南青葉山 工学部機械系棟
川内   情報処理教育センター
片平   電気通信研究所

表2:利用した機器

ワークステーション   東芝製 AS-4085 (Sun SS-20 相当)
テレビ会議ソフトウェア Sun製 ShowMe
マルチメディア機器   SunVideo ボード,ビデオカメラ,マイク,ヘッドセット
ネットワーク機器    Fore製 ATM インターフェースボード

 各参加者は,ワークステーション上で, ShowMe ソフトウェアの 動画像,音声,共有ホワイトボードの 3つのアプリケーションを同時 に起動しました。 実際のテレビ会議は, 全ての参加者の顔(及び周囲の風景)を real-time で画面に写し, 共有ホワイトボードに文字や絵を書きこみながら, 音声でやりとりを行う,という形態でした。
 動画像は 640×480ドットのサイズであり,人間の表情は十分に 読み取れました。文字を書いた原稿は読み取れなかったので, 共有ホワイトボードに書いて伝達する必要がありました。 ただ,今回は,日本語を直接ホワイトボードに書きこむ方法を知らなかった ので,英語を書きながら日本語で会話する,という形になってしまいました。 今回のデモでは,動画像の画質は, 画像を取りこむビデオボード(SunVideoボード)の性能で 決まりました。これは,通常ボトルネックになりがちな通信路が, 今回は ATM 方式であり,十分な速度を持っていたからです。 正確なデータではありませんが,上記サイズで, おおむね1秒間に 10フレーム程度の転送ができました。
 この構成で, 西澤総長らによる『本学初めてのテレビ会議』も 成功し,SuperTAINS の有用性が実証されました。
 今後検討すべき技術的事項として以下の項目をあげておきます。

2.ケーブルテレビとビデオ・オン・デマンド

 将来の東北大学における講義の 1つのモデルケースとして, ビデオテープに収録した講義内容を 複数の地点から発信し, SuperTAINS を介してデモ会場で受信する,という実験を行いました。
 題材は,SuperTAINS 製作過程を記録したビデオのほか, 教育学部大学教育開放センターがテレビ放送用に 収録・保存したビデオを借り受けました。これらを, 工学部機械系棟および情報処理教育センターから常時流し続けました。 受信側では,2 つのチャネルから自由に選択して視聴することが できました。いわゆるケーブルテレビの感覚です。 利用した機器は,上記のテレビ会議とほぼ同じものに加え, ShowME TV ソフトウェアとビデオテープ再生用のデッキを利用しました。
 このデモは,情報の流れが一方向的であり,技術的にはテレビ会議に 比べ容易に実現することができました。ATM による高速通信のおかげで 画質が元のビデオテープより落ちることはありませんでした。
 もう 1つ興味深かったのは, 動画像および音声のデータをディジタル化して 磁気ディスクに保存し,好きな部分を再生して楽しむ,という ビデオ・オン・デマンドのデモ(日本サンマイクロ社の協力)です。 この場合も,ATM 通信は十分高速であり,ボトルネックは, 磁気ディスクからの読み出しやワークステーションの CPU 速度である ことがわかりました。実際のデモでは, ディスクアレイを用いた高速読み出しにより,非常に美しい画像を 見ることができました。

3.ATM による通信

 デモの目的の 1つとして,ATM 方式が FDDI やイーサネット方式に比べ どの程度優れているか実測することがあります。 そこで,上記システムを用いて性能測定しました。 測定環境は,Sun SS-20 (Fore製 ATM ボード付き) を ATM スイッチ 5台を介して PVC で接続したものです。
 ただし,性能測定は,わずかな条件の違いによって大きく結果が異なるので パラメータをいろいろ変更させて測定しないと正しい結果は得られま せん。以下の表は,デモの際の構成による測定だけを行ったものですから, 参考程度にお考えください。

表3:ATM 通信の性能

内容       TCP 関係のウィンドウサイズ  速度
ftp による転送  標準値            15-20Mbps
ttcp による転送  8192 (標準値)         70Mbps 程度
同上       65535            80-90Mbps

 ftp による転送では,コマンド自身が TCP 関係のウィンドウサイズを小さく設定してしまうので, システムのウィンドウサイズの変更は結果に影響しませんでした。 ftp で転送したフイルは約 30MB のサイズです。
 ttcp というのは TCP を利用した通信性能測定プログラムであり, 両方のワークステーションのメモリ間の転送結果です。この数値は イーサネットや FDDI と比べると非常に高速であり,ATM の潜在能力 を示したものになっています。 しかし,実際には,ftp の結果でわかるように, 大きなファイルの転送の際には,ディスクへの書き込みがボトル ネックになり,上記のように大幅に速度が落ちます。さらに,現状の ftpコマンドや TCP関係の標準設定は,ATM などの超高速ネットワークに 対応していないため,それも速度低下の要因となります。
 以上のように,ATM を用いて TCP/IP プロトコルを用いた通信を行う 際には,ネットワーク技術の面から改善の余地が大きいようです。
 この他の話題として,準備段階では, PVC の他に Fore社独自の SPANS 方式による設定をする予定でしたが, デモ前日にトラブルが生じたため,安全を期して全てを PVC に 置きかえて設定しなおしました。SPANS は設定の手間が非常に少なく, 有用であると考えていましたので,このトラブルは残念でした。

4.インターネットの MBONE の利用

 今回のデモでは,SuperTAINS の能力をフルに使ったマルチメディア 通信だけでなく,学外の組織との接続によるインターネットの世界の マルチメディア通信についても紹介しました。
 インターネット上では,MBONE と呼ばれる multicast 通信技術を使った 仮想的なネットワークが構築されており,テレビ会議 等のアプリケーションを走らせることができます。 そのためのソフトウェア として,nv,vic (動画像),vat (音声),wb (共有ホワイトボード)などが 無料で配布されています。 これらを利用して,インターネットを介したテレビ会議を行いました。
 当日は,JC Classic (SPARC Classic 相当) に VideoPIX ボードと 市販のビデオカメラを接続した一式と SGI Indy 一式 (ビデオカメラ等は標準装備)を用意して, TAINS88 のイーサネット経由 () で MBONE に接続しました。
 MBONE では,誰でも会議に参加できます。 実際に,チャネルを開いて呼びかけたところ, 奈良先端大や九州工業大学の研究者が参加してくれたので, 国内のみではありますが,SuperTAINS デモ会場の風景を 伝えることができました。逆に奈良からは,鹿のいる風景を流してもらう ことができました。
 インターネットを介した通信は,SuperTAINS に比べてはるかに 低速 (64Kbps〜 1.5Mbps 程度) であり,MBONE 上のテレビ会議の品質も, 上記の ShowMe によるテレビ会議等よりはるかに劣ります。 実際,vic を使った動画像の送信では,100Kbps 程度の通信量になるよう 設定していました。したがって,動画像というよりは,ゆっくりとコマを送る 映画という感じの画面です。 しかし,音声については,相手の声と重ならないよう注意して話せば, 十分に使いものになる,という感じです。
 MBONE を使ったマルチメディア通信の特徴は,その広域性です。 世界中の人と(相手が MBONE に参加していれば)話しをすることができます。 また,品質が劣るので,かえって必要な機器は安価なもので済む,という のも(逆説的ですが)利点に数えられます。 上記セットの場合,ワークステーションを含めても 80万円程度で 一式そろえて,MBONE に参加することが可能になります。

5.終わりに

 今回のデモは,ネットワークに馴染みのない人にもわかりやすい通信例 を数多く取りいれることができました。また,デモの準備に携わった 我々自身もテレビ会議を道具として使い,大変重宝することができました。 今後,このような身近なアプリケーションが安価に入手できるようになり, 多くの人が電話や電子メイルと同じ位の感覚でテレビ会議ができるような 時代になることを願っています。

情報科学関係デモ・グループは, 以下のメンバーで構成されています(五十音順)。

伊藤 彰則 (情報処理教育センター, 現在,山形大学工学部)
大町 真一郎 (情報処理教育センター)
亀山 幸義 (電気通信研究所)
小林 広明 (グループ取りまとめ役, 情報科学研究科)
藤井 章博 (大型計算機センター)
松川 卓二 (工学部機械系)

[注釈]

(注) したがって,厳密にいえば,SuperTAINS のデモではありません。 もちろん,接続形態を変更すれば, SuperTAINS を経由して MBONEに接続することもできます。

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