東北大学附属図書館のディジタルライブラリ化の現状と将来

附属図書館調査研究室 石垣久四郎
1.はじめに

 「情報検索」という言葉は,昔から図書館の主要な業務として使われ, 発展してきた情報提供サービスの基本的機能です。従来までの情報検索 は,主に所蔵目録カード(著者名・書名・件名目録カード)による方法 と,書庫中の主題分類(書架分類; 書籍は主題分類順に配架)による方 法のいずれかによって,利用者は必要とする所蔵資料や情報を入手して いました。しかし,電子計算機は,誕生以来,情報処理・通 信技術の驚異的な速さでの発展により,文字情報処理をはじめ,オンラ インシステム,コンピュータネットワーク,データベースシステムなど が具体化され,社会の高度情報化時代をもたらしました。当然大学の教 育研究活動の基本支援設備である図書館にも大きな影響を与え「情報検 索」は,従来の方法からコンピュータによるオンライン情報検索システ ム(所蔵目録データベースの構築・検索)へと発展し,1980年代か らオンライン情報検索システムを基本とした総合的図書館システムの構 築化が,全国的規模で推進・展開されてきました。さらに超高速大容量 ネットワークの基盤整備,インターネットの飛躍的な普及を基盤にして 社会全体が本格的な高度情報化へ向かっている昨今,図書館資料の電子 化とその流通は,従来の文字情報に加えてマルチメディア情報を対象と する形態へ急激に進展しています。つまり情報の中身(コンテンツ)を 検索・提供できるディジタルライブラリ(電子図書館)の現実性が急に身 近なものとなってきています。ここでは,現行の本学図書館システムの 概要と近い将来に具体化できるであろう電子図書館の概念について簡略 に述べることにします。

2.現行図書館システム

 東北大学附属図書館では,高度情報化社会の到来に伴う大学の教育研究 環境の変革に対処するためにコンピュータを導入し,1987年度から 図書館業務全般をコンピュータ処理によって管理運用しています。大学 図書館システムは,単に自館システムだけではなく,全国学術情報ネッ トワーク形成の一翼を担う機能をも備えたシステム構成が前提であり, 学術情報ネットワーク(コンピュータネットワーク)を通じて学術情報 センター(全国共同利用機関)と結ばれています。本学の図書館システ ムは,データベース管理システムを基本に,図書館業務全体が有機的に 連結したトータルライブラリシステムとして構築され,T-LINES (東北大学図書館情報処理ネットワークシステム)という愛称で呼ばれ ています。
 現行図書館システムは,センター・ホストシステム集中処理方式による オンラインネットワーク型構造を採用し,ホストシステムとして本館に 汎用中型コンピュータを,学内各キャンパスの本館・各分館・各部局図 書室に業務専用端末システムをそれぞれ設置した構成です。また,ネッ トワークの接続は,学術情報センターとは,学術情報ネットワークを通 じて結び,学内各キャンパスの各分館・部局図書室とは,東北大学総合 情報ネットワークシステム(TAINS88 )を使用して実現しました。 特に,TAINS88 とはその完成・運用開始と同時に結合し,利用者 が何処の研究室(パソコン)からでも,学内LANを通じて自在に蔵書 検索システム(OPAC; On-line Public Accses Catalog)にアクセ スできる情報提供サービスを,全国大学に先駆けて開始しました。
 図書館システムの機能は,より優れた学術資料・情報(一次情報,二次 情報)の収集,整理,保存という情報蓄積機能と,利用者が必要とする 所蔵資料・情報を迅速,かつ的確に検索提供するという情報提供サービ ス機能,の二つに大別できます。情報蓄積機能は,図書館資料の選択・ 受入,分析・整理・書誌所在情報のデータベース作成,書籍の装備・配 架などであり,主として所蔵目録データベースの構築と書籍の保管とい うことになります。また情報提供サービス機能は,所蔵目録データベー スを基に利用者が必要とする資料・情報をいつでも,どこからでも,必要 な時間に検索アクセスでき,利用者の要求形式に応じた形で提供するこ とができるということになります。
 現行システムは,1992年1月,汎用大型コンピュータに更新し,ホ ストシステムの総合処理能力の増強,ネットワーク環境の強化,業務処 理専用端末の増強,及びILL(Inter Library Loan; 図書館間相互貸 借・複写機能)システム,OPACなど業務アプリケーションの大幅な改 良と拡充を図り,現在まで円滑な日常業務処理と情報提供サービスを行 うことで,教育研究の支援機能を果たしてきました。
 しかしながら,近年,さらにコンピュータ技術とネットワーク技術が急 激に進展し,ネットワーク間相互接続されたLANが巨大なメインフレ ームのシステムに取って代わるクライアント/サーバ・アーキテクチャの 指向によるコンピュータのダウンサイジング化と,学術情報流通の電子 メディア化の展開に大きな影響を及ぼしています。それは,例えば図書 館資料のCD-ROM化,彩色資料のフォトCD化,イメージ画像デー タベース(全文)化,マイクロフィルム化など,マルチメディア図書館 資料の急激な増大です。さらに,それらの流通を可能とするWWW (World Wide Web)サーバやそのクライアントであるMosaicなど, マルチメディアアプリケーションの普及に伴うインターネットによる多 種多様な情報提供サービスが,一昨年頃から急速な勢いで展開していま す。
 このような状況下で,附属図書館では一昨年度の「学内共通臨時経費 (教育研究学内特別経費)」の援助を受け,昨年8月からクライアント /サーバ・モデル(WWWサーバ)によるインターネットを通じたOPAC 及び他機関の学術雑誌のコンテンツサービスなどの試行的情報提供 サービスを行うようになりました。同時に,また本館利用者空間にTAINS88 を介し,インターネットに通じたパソコンコーナ(10台)を 設置し,一般学生利用者に対して無料で開放し,自由に利用できるよう になっております。

3.ディジタルライブラリ(電子図書館)化へ向けて

 社会全体が本格的な高度情報化へ向かって展開している昨今,大学にお ける学術情報の流通形態は,従来までの図書館システムの機能に加え, 大きな機能拡張の整備が必須となっています。つまり,図書館資料のマ ルチメディア化の急速な増加,SuperTAINS に見る学内LAN の超高速大容量化,インターネット利用者の急激な増加による情報提供 サービスの多種多様化など,今後における大学図書館システムの情報サ ービス活動は,従来のシステムより大きな飛躍が要求されています。そ れは,所蔵資料の二次情報(図書の書名・著者名など,文献情報)のみで なく,さらに一次情報(図書・雑誌の中身; 全文データベース)をも提 供できるシステムの具体化です。この一つが,マルチメディア・データ ベースシステムを指向するディジタルライブラリ(電子図書館システム) だといえるでしょう。
 ディジタルライブラリの意味するところは,従来のシステムにおいて電 子機器やネットワークなどの情報処理機器を充実し,さらに効果的な情 報サービスを推進することに加えて,ネットワークを通じて従来の図書 館的なサービスの置き換え(仮想図書館)を行うような情報提供サービ スシステムへの指向であると考えられます。したがって,ディジタルライ ブラリは,従来の図書館システムと相対立するものではなく,相互補完 的に作用し合って今後の学術情報の流通・活動を,一層高次的に展開し ていく上で深い関係をもっており,電子出版,データベースサービスな どと直接的に影響しあって進展していくシステムであると考えられます。
 ディジタルライブラリの具体化の動向は,世界では米国がNII (National Information Infrastructure; 情報ハイウェイ)構想に 沿って,現在最も盛んのようです。特に,米国議会図書館(The Library of Congress; LC)では,15の主要な研究図書館が協力して「The National Library Federation」が設立され,議会図書館と国立公文書 館に,主要な大学図書館が加わって,文化的,歴史的な資料のディジタ ル化を推進し,将来「National Digital Library」の構築を目指してい ます。また,NSF,ARPA,NASAなどが協力出資し,1994 年から4カ年計画により「Digital Library Initiative」を開始していま す。そのプロジェクトは大学を中心とし,先端技術の具体化を目的とし た研究プロジェクトで,例えば,カーネギメロン大学では,Informedia という名称のビデオライブラリの実現を目指し,音声認識,動画処理を 基礎とした研究開発を進めているようです。さらに,カリフォルニア大 学のサンタバーバラ校では,Alexandria Digital Libraryという名前 で,地図の情報を対象としたシステムにより,三次元的なブラウジング を可能にしているようです。
 一方,わが国では京都大学附属図書館でデモをしているAriadneが著名 であり,Mosaicをブラウザに拡張して階層構造検索,機械翻訳,自動朗 読などの多機能を採用しているのが特徴です。また,奈良先端科学技術 大学院大学では,附属図書館を電子的な形態で実現することを目指し, Mosaicの使用,OCR処理したテキストなどを扱っています。そして, 特に電子図書館システム化が最も進んでいるのは,文部省の学術情報セ ンターにおける活動です(安達淳「電子図書館の動向」第10回研究会講 演資料,大学NECシステムユーザ会,1995.11)。
 わが国の学術情報ネットワークシステムの中枢機関である学術情報セン ターでは,次世代の情報提供サービスとして,電子図書館システム NACSIS\_ELS(NACSIS Electronic Library System)の開発を行い,1995 年2月から試行サービスを実施しており,インターネット上で公開さ れています。その機能は,全国共同利用機関の役割との関係で,学協会 の学術雑誌を当面の対象としています。学術雑誌のすべてのページを直 接データベースに蓄積し,利用者の手元に高速ネットワークを通してセ ンターから直接供給する機能を実現するというものです。電子図書館シ ステムのデータベースサーバは,具体的には二次情報データベースと文 献(論文)のページの画像データベースを統合したものです。二次情報デ ータベースとは著者名,雑誌名,などを頼りにして文献を探すための情 報で,従来からオンライン情報検索システムとして提供されてきたもの と同じです。また,学術雑誌のページの情報は,表紙,本文のすべてを画 像としてディジタル化して蓄積し,ネットワーク上に送信することで直 接モニタ上に論文のページを表示したり,プリンタへ高品質な印刷出力 が可能となっております。したがって,従来の二次情報文献検索サービ スやドキュメントデリバリーサービスを包含し,インターネットを通じ て直接データベースサーバから利用者のワークステーションに文献を送 り届けるサービスであるといえます。
 以上のような動向から,本学附属図書館では,現在,1996年12月 末日の導入・稼働開始を目指して,次期図書館システムへの更新作業を 鋭意進めています。それは,文字情報提供サービス(所蔵目録データベ ース)中心の従来の図書館業務と図書館利用の継続性の機能をおおむね 包含し,加えて新たにマルチメディア資料を対象とした情報提供サービ スの機能を備え,かつ日常業務処理が円滑に行えることはもとより,将 来的に拡充・発展が可能である最新のコンピュータシステムの導入を目 的にしています。今後とどまることの知らないコンピュータとネットワ ークの技術に対する性能向上の要求は,特に学術環境でさらに展開され るであろうと思います。
 したがって,次期図書館システムは,TAINS88 及びSuperTAINS を使用したオープンシステム化を指向し,学内LANをメイン フレームのシステム機能に代用するクライアント/サーバモデルの構成 を基本としています。そして,インターネットの普及を基盤として,マ ルチメディア情報を対象とするディジタルライブラリシステムの実現を 目指しております。ディジタルライブラリシステムの具体化へのアプロ ーチの実験例として,先のSuperTAINS 完成披露の公開デモで 行った,本学が誇る大コレクション「狩野文庫」の彩色資料を対象とし た,カラーイメージ画像データベースのオンライン検索システムを,SuperTAINS を通じて実現しております ( SuperTAINSニュースNo.2参照)。
 最後に,今後共,本学図書館システムに対して全学的なご指導とご協力 をよろしくお願いいたします。


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