SuperTAINS の利用を考える(4)
−ネットワークの便利な使い方−

大学院情報科学研究科 藤井章博
fujii@nemoto.ecei.tohoku.ac.jp
1.はじめに

 紀元前1200年ごろの話。ギリシャ軍は,トロイの城を攻めるのをいった んあきらめると見せ,巨大な木馬を置き去りにしたまま引き上げて行き ました。戦いに勝ったと思い,油断したトロイ人は,戦勝の印に とこの木馬を城内に引き入れました。お祝いの宴が開かれ,人々は酔い つぶれました。そして真夜中,木馬は開き,中に隠れていたギリシャ兵が 閉ざされた城門を開け,外に待機していたギリシャ軍が城になだれ込み ました。そして,トロイの城は滅ぼされてしまったということです。
 この話にちなんで,似たような手口でコンピュータシステムに不正に 侵入する方法を「トロイの馬」と呼びます。他人のコンピュータのデー タを不当に盗み出したり,破壊したりする目的でネットワークを徘徊す る輩の噂が後をたちません。最近の計算機やネットワークでは,システ ムのセキュリティが向上し,このような侵入に対しては,かなり高度に 防御することができます。そこには,ネットワークの状況を常に監視し ている運用者の努力があることも忘れてはなりません。しかし,油断し ないことです。新しい技術はいつも便利さとうらはらに危険も伴 うものです。
 さて,今回は,簡単にできる便利なネットワークの使い方を幾つか紹 介したいと思います。

2.自宅等からのネットワークの利用

 インターネットばやりですので,新しく買った家のパソコンをネットワ ークにつないで,ネットワーカーの仲間入りをしたいと思っているかた も多いかと思います。ここでは,家のパソコンをつなぐ方法を紹介しま す。

2.1 電話回線を利用した接続

 パソコン通信等をはじめるためには,まず,手元のパソコンなどをネッ トワークに接続しなければなりません。必要なものは,パソコンと電話 回線の他に,インターフェース,モデム,端末ソフト,です。
 インターフェースとしては,通常のパソコンには,シリアルインター フェースとかRS232-Cと呼ばれるものが必ず付いています。
 端末ソフトとは,外からやって来る信号を文字にして表示してくれる ものです。マッキントッシュ,Windows3.1,Windows95 などの基本ソフトには,あらかじめ付属していいます。
 そこで,必要なものはモデムだけとなります。モデムとは,パソコン からの信号を電話回線の信号に変換するものです。現在,モデムとして 最も普通のものは,14400(バイト/秒)程度の伝送速度で,2万 円程度です。
 まず電話線をモデムに接続します。使うケーブルは,通常の電話線と 同じジャックの付いたものです。電話機を使えるようにしておくために は,モデムから同じケーブルを使って接続します。こうしておけば,電話 が使えなくなることはありませんが,パソコンが電話を使っているときに は,同時に電話はかけられません。 モデムとパソコンは, RS232-C用のケーブルを用いて接続します。このケーブルは モデムに付いて来ます。これだけの準備ができたら,計算機のターミナ ルプログラム(端末ソフト)を起動して,電話番号を入力するだけです。
 パソコンの接続方法には色々なバリエーションがあります。例えば, 端末としてノートパソコン,モデムとして軽量のポケットモデムとかカ ード型のモデム,電話機として携帯電話をそろえれば,移動型の端末 になります。動くオフィスとでも言いましょうか。
 携帯電話が無い場合でも,同じ構成で,公衆電話のISDN回線を利用 すれば街中でネットワークを使うことができます。この場合,使える 公衆電話は灰色のもので,電話機の中央部に先程述べたジャックが使え る接続口が付いています。

2.2 大学の計算機の端末になる

 高度情報化社会がやって来ると,計算機と通信機器を利用し た在宅勤務が広く行われるようになるだろうと予測した 人がいました。情報ネットワークが発展しても,人間同士が同じ場所に 集って仕事をすることの重要性は変わらないからでしょうか,あま り彼の予想どおりには世の中が進んでいないようです。それでも,仕事 場で常に計算機を使って仕事している人にとっては,自宅のパソコン を電話回線に接続するとそれなりの恩恵があります。
 例えば,大型計算機センターのメールシステムを利用している人は, パソコンから,電話回線を通じてcctu-mail(メール用のホストコンピュ ータ)に接続することができます。先程述べた準備の後に,端末プログ ラムにcctu-mailを呼び出す電話番号を入力するとloginプロンプトが すぐ現れます。これを使えば,研究室からTAINS を通じて大計を利用す るのと同じように自宅や出張先から(少々電話代がかかりますが)メール を読み書きすることができます。
 もう一つの接続方法としては,仕事場で電話回線を用意して, 通信用のモデムを設定し,普段使っているワークステーションをホストコ ンピュータとすることです。 こうすれば,先程述べた自宅側で設定したパソコンをこの ワークステーションの端末とすることができます。私の同僚 に,このような構成のシステムで自宅での夕食後の時間を プログラム開発に当てていた人がいます。
 また,ダイアルアップルータという機器があれば,研究室にあるワー クステーション数台のネットワークに電話回線を通じて接続することが できます。このような形態で接続した場合は,自宅のパソコンから TAINS に接続できていることになりますから,TAINS の通常のサービス やそこからのインターネットへの接続が可能です。

2.3 パソコン通信

 次に,先ほど構成した自宅のパソコンからいわゆるパソコン通信を行う にはどうしたら良いのでしょうか。基本的には,パソコン通信のホスト コンピュータに電話で接続するだけです。電気屋さん,本屋さん等で売 られている加入用パッケージを購入すれば,つなげるための最寄りの電 話番号,つながった後の手順,料金の支払方法等が書いてあります。 入会登録は,最初からパソコンでできます。

2.4 より高度な接続方法

 今まで述べてきた接続方法は,あくまであなたの計算機を別のホストコ ンピュータの端末にする方法です。つぎに,より高度な利用方法として 自宅の計算機をインターネット上のホストコンピュータとする場合につ いて簡単に説明します。
 最近,WWWのサーバとなる計算機を自宅に持ち,自分のホームペー ジを開設している人もいるようです。このようなことを行うには,IP アドレスというインターネット上の住所のようなものをきちんと取得す る必要があります。
 参考までに付け加えますと,TAINS に接続されている計算機は全てIP アドレスをもっています。これは東北大学が組織としてまとまって取 得しているアドレスを学内の担当者が系統立てて各部局に発行している のです。
 一般の人がIPアドレスを取得するためにはインターネットプロバイ ダとよばれるサービス業者にこの業務を依頼しなければなりません。 これはかなり高額になることを覚悟してください。
 さて,めでたく自分用のアドレスを取得し, インターネット上で個人のホームページを開設するとなると カラーの画像情報などを発信することになるでしょう。 このような場合は,普通の電話回線とシリアルインターフェースでは全 く力不足です。通信用回線としてはISDN回線を自宅に設置したり,こ れに伴ってISDN用のインターフェースボードを用意することが必要にな るでしょう。

3.便利な使い方

 つぎに,コンピュータを使って仕事を行う上で役立つ, ちょっと便利なネットワークの使い方を挙げてみます。
 附属図書館の蔵書検索機能は,利用されたことのある方が多いと思 います。この蔵書検索は,今年からWWWからも利用できるようになりま した。( http://www.library.tohoku.ac.jp/) また,文字端末からでもtelnet機能で利用できます。 (opac.library.tohoku.ac.jp, login:opac, passwd:opac)
 パソコン通信には,ビジネスに利用すると便利な機能がたくさんあ ります。詳細は,解説書に譲るとして,幾つかの機能の紹介をしてお きます。
 まず,新聞社のデータベースです。全国誌や主要な地方紙は,主要な 記事をパソコン通信で公開(有料)しているだけでなく,掲載記事の一 部をデータベース化しています。キーワードを入力すると関連する記事 を表示させることができるため,ちょっとした調べものには大変重宝し ています。
 次に,パソコン通信のメール機能です。パソコン通信では,同じパソ コン通信に属する仲間へのメールの送信に加えてFAXの番号を入力する ことでその番号にメールの内容を送信することができます。これを利用 するとパソコンのワープロソフトで作った文章をそのまま相手に送るこ とができます。紙に打ち出して,FAX機器に読み込ますという手間をと ることなく送信できます。(最近のモデムにはFAX送信機能が付いていま すのでわざわざパソコン通信からFAXを送る必要はないかもしれません が。)TAINS にもこのような機能が欲しいところです。
 パソコン通信では,インターネットと電子メールの交換ができます。 パソコン通信に加入している人にはTAINS につながったUNIXワークステ ーションからメールを送信することができます。逆に,自宅にパソコン 通信の端末があれば,TAINS 上のどの計算機のユーザーに対してもメー ルを送ることができます。
 また,パソコン通信からインターネット上の計算機に対してtelnet することができます。(有料) これを利用すると自宅からTAINS 上の どの計算機とも接続することができます。
 パソコン通信のサービスの中には,文章をメールで送るとその翻訳 (機械翻訳)をメールで送り返してくれるサービスもあります。同様の翻 訳機能は,大計センターのサービスにもあり,ネットワークを通じて利 用することができます。
 まだまだ,有用な利用方法はたくさんあるでしょう。特にWWWから アクセスできる情報源は最近急速に充実してきています。

4.むすび

 SuperTAINS ニユースに,情報ネットワークのアプリケーションについ ての解説を書きはじめたのが約1年前になります。その時は,「インタ ーネット」とか「WWW」といった言葉は,それほど,一般的な用語では なかったと思います。ところが,この1年間で,テレビ,ラジオ,新聞 等でこれらの言葉を耳にする機会が驚くほど多くなり,本屋には,イ ンターネットへの接続方法の解説書等が山のように積まれるようになり ました。SuperTAINS が誕生してからの一年間は,一般社会でもネット ワークへの関心と利用が急激に高まった一年でもありました。
 本シリーズの筆者としては,いろいろ目新しいことを書いて読者を驚 かすつもりが,「そんなの知ってるよ」,ということばかりになってし まったようです。ネットワーク利用の振興の立場からは,これは大変 喜ばしいことといえましょう。本シリーズで述べて来た例を参考に していただき,今後とも皆さんひとりひとりが ネットワークを利用したより良い研究/教育の環境を作って行ってくだ さい。


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