TAINS 利用研究会の近況

総合情報システム運用センター 曽根秀昭
sone@tains.tohoku.ac.jp
総合情報システム運用センター 佐伯田鶴
saeki@tains.tohoku.ac.jp

1 TAINS 利用研究会の歩み

 東北大学のキャンパスネットワークTAINS の大きな特徴は,1988年の運用開始の ときから,全学の利用者が利用推進のための研究に参加して,そのために「TAINS 利用研究会」などの利用者の集まりが組識されていたことです。
 1996年にTAINS の運用管理業務と運用・利用技術の研究開発の役割を担うために 総合情報システム運用センターが発足しましたが,運営委員会に置かれた技術専門 委員会に各分野のネットワーク専門家が参加し,また,その下のTAINS 利用研究会 にTAINS の利用に関して深い経験と熱意のある有志が集う体制をとっています。こ れらの集団が,ネットワーク利用に関する調査と技術開発や自主的ルールによる試 験運用などを通して,全学的な貴重な財産であるTAINS を有効活用するための検討 を分担しています。
 TAINS 利用研究会の活動について,1997年にもSuperTAINS ニュース(11号[1])で 紹介しました。1999年度から,その時々の問題について効果的に取り組めるように, TAINS 利用研究会の運営の方法を少し改めました。本稿では,その変更と,最近の 活動について紹介します。

2 TAINS 利用研究会の新しい運営方法

 1996年から,TAINS 利用研究会の中にグループを作り,参加者がそれぞれ興味を もった分野を研究するような運営方法をとってきました。しかし,グループの設置 が固定的になりがちで,新しい時代への対応が必ずしもスムーズに行かないことが あったので,より効果的に活動できるよう,技術専門委員会とTAINS 利用研究会と で新しい運営方法を考えました[2]。
 具体的には,グループについて,TAINS に貢献できるような研究計画を実施する 組織という役割を明確にするとともに,グループの設置のルールを成文化しました。 TAINS 利用研究会のグループとして活動しようとするときには,研究グループを組 織して研究計画を立案し,研究計画を技術専門委員会へ提案します。研究テーマは, TAINS の運用技術の確立や,利用ルールの提案,ドキュメントの整備などが考えら れています。研究グループは,必要なときにいつでも提案することができ,年度末 に成果を発表することになりました。

TAINS 利用研究会のグループ

 1999年9月現在で,TAINS 利用研究会には8つのグループがあります[3]。それぞれの グループの研究課題と研究内容などは,以下の通りです。(ABC順)
(1) AppleTalk グループ (代表者: 武山 泰)
 「SuperTAINS におけるAppleTalkの運用・開発とサービス提供」
 SuperTAINS において AppleTalk の円滑な運用の促進と, AppleTalkと Macintoshに関する情報を提供することにより利用者の便宜を計ること を目的とする。
  1. UARの運用
     SuperTAINS におけるUARによるAppleTalkのTunneling技術はAppleTalkグルー プによる実験と実際の運用によりすでに確立されたものとなっている。今期 はUARの運用を行うとともに,とAppleTalk接続申請業務のマニュアルを作成 し,運用センターへ移管するための準備を整える。UARとAppleTalk接続申請 業務のマニュアルの作成には三ヶ月かかり,8月以降に運用センターへ移管 する予定である。
  2. www, ftp, AppleShareによる情報の提供
     www, ftp, AppleShare等により,必要な情報をTAINS の利用者に提供する。
  3. その他
     上記のサービスによりTAINS のAppleTalkネットワークが効率的に運用され, 利用者にとって便利の良いものとなることが期待される。
(2) IPv6グループ (代表者: 曽根 秀昭)
 「TAINS における IPv6 の運用技術の開発と実用化試験」
 現在のTAINS やインターネットを始めとするインターネットプロトコル(IP)ネッ トワークで使われている通信プロトコルはIPv4であるが,アドレス空間の枯渇の 問題を解決し,また通信品質(QoS)制御した通信を実現するなどのために次世代 のプロトコルとしてIPv6があり,今後,徐々に移行が進むと見られている。TAINS においても,将来のIPv6による通信への対応や移行に備えて,IPv6の運用技術を 開発・蓄積しておくことが必要である。本研究グループは,IPv6の運用技術の開 発,とくにIPv4ネットワークに欠けているmanageabilityの研究を目的とする。
 このために,TAINS 内でIPv6による通信の実験を実施して実用化試験を行い,得 られた運用技術などを整理して将来の本格運用への移行に備える。
 当初の1年間程度は,IPv4またはATMの上にIPv6を通すトンネリングによる,学 内外との通信の実験を行う。
 TAINS におけるIPv6プロトコルを用いた通信の運用技術の確立,利用ルールの提 案に向けた運用技術の整備と普及などの成果が予想され,これにより,TAINS の利 用技術の発展に貢献する。
(3) irc グループ (代表者: 杉浦 茂樹)
 「TAINS における Internet Relay Chat の管理・運用技術の開発と実用化試験」
 近年,同期型コミュニケーションの手段のひとつとしてインターネットを活用 したチャットが盛んになりつつある。本研究グループでは代表的なインターネッ トを活用したチャットシステムであるIRC (Internet Relay Chat) を対象として, 管理・運用技術の開発と実用化試験を行う。
 具体的な研究課題としては以下のようなものがあり,実際的な運用を通して解 決を目指す。
  1. 基盤アプリケーションの開発・改良
  2. 広域なコミュニケーションの場の接続層の維持・管理に関する技術の獲得
  3. 広域なコミュニケーションの場の社会活動層の維持・管理に関する技術の獲得
(4) 効率利用調査グループ (代表者: 村松 淳司)
 「TAINS におけるより効率的な利用のための調査研究」
 現在,各部局ごとや研究室ごとに管理されているTAINS では,ネットワークの全 般的な問題については解消が難しいという問題が見られる。より効率的な運用を 実現する必要がある中で,まず現在の利用状況や形態を調査し,その結果をまと めるとともに,今後現れる技術的な問題や,運用における問題について,情報を 収集し,解決策などを必要に応じて公表する。
 他の部局や研究室の運用状況や不具合の解消事例を参考にすることで,単一の 部局や研究室が単独で問題の解決を行う場合に比べ,迅速化と効率化をはかるこ とができる。
(5) Macintoch本編集グループ (代表者: 佐伯 田鶴)
 「Macintochを用いてTAINS を適正に利用するための情報環境整備」
  1. Macintosh を用いた TAINS の利用について適切な接続・設定方法をまとめ, 書籍および web で公開する。旧 TAINS 利用研究会 AppleTalk グループの 「Macintoshで TAINS 自由自在」の新版という形になると思われるが, これは MacOS 7.5 ま での情報に基づいて書かれているので,事前に MacOS 8.1/8.5 についての調査 研究(2,3ヶ月)が必要となる。その後執筆に数カ月を要し,年内には発行す る予定である。
  2. TAINS を利用するために必要となる基本的なソフトウェアを AppleShare およびFTP で提供する。
 TAINS の利用者,特にコンピューターネットワークを始めて利用する人に適切 な利用方法を知らせる。これにより設定ミスなどによる事故を予防し,TAINS の 円滑な利用が可能になると思われる。
(6) MS-Network グループ (代表者: 村松 淳司)
 「TAINS におけるMS-Networkの運用技術の開発と実用化試験」
 TAINS 内のMS-network関連の運用技術についての開発とその実用化試験を行うこ とを目的とする。WINSサーバーとして2台のサーバー(主と副)を用意し,WINS による名前解決のための手段を提供する。一方,NetBIOS, NetBEUIに関する運用 技術について,その開発と試験研究を実施する。具体的には,TAINS に流れるパ ケットを解析し,WINSサーバーの設置によるTAINS 幹線の負担の軽減をめざす。 さらに,MS-Network(主にWindows)によるファイルやプリンター共有について の,必要な情報をTAINS 利用者に提供することも行う。
 TAINS 上のMS-Network関連技術のより効率的な運用が可能になると同時に,新規 な利用者への啓蒙活動にもつながるものと考えられる。一方,Apple-Talkなどの 異種ネットワーク技術との情報交換を行うことで,より円滑なTAINS ネットワー ク運用の技術開発を行うことが可能であろう。
(7) ネットワーク法律問題研究グループ (代表者: 芹澤 英明)
 「TAINS 上で生じる様々な法律問題の研究」
 最近他大学のコンピュータネットワークでは,著作権侵害や不正アクセス問題 への法律的な対処が問題になってきている。また,いわゆる「ネットワーク犯罪 」の捜査のためと称して強制捜査がなされる例も生じてきた。TAINS を安全に利 用するためには,このような法律問題に対する理解がなによりも必要であるとこ ろ,残念ながら本学では対応が後手にまわってきたと言わざるをえない。このグ ループは,いままで主にネットワーク上の「著作権」保護問題を研究してきた「 知的財産権研究会」を改組し,より広く「ネットワーク」にかかわる法律問題の 研究を行うものである。
 初年度は,不正アクセスについて立法作業が進んでいることをふまえ,不正ア クセスに対する法的対策について,諸外国の例を参照しつつ調査し,TAINS として, どのような対策をとればいいか提言したいと思う。
(8) UNIX本編集グループ (代表者: 佐伯 田鶴)
 「TAINS への適正な機器の接続のための調査研究成果の発表 <UNIX機器の接続についての参考図書の編集と発行>」
 TAINS 利用研究会で調査研究してきた,TAINS への機器の適正な接続方法につい て,その成果をとりまとめ,学内に衆知徹底させるため。調査研究は既に終了し ているので,それをとりまとめることと,執筆作業に数ヶ月を要し,概ね8,9 月頃に編集作業を終了し,発行する予定である。編集発行する参考図書の内容は, UNIXやそれに関連するOSをインストールした機器の適正な接続法と,セキュリテ ィ手法や,簡単な実用事例を紹介することなどである。
 TAINS は種々の接続機器があり,それらが不正な動作をすると全体に影響を及ぼ しかねないし,セキュリティの甘い端末が存在すると,深刻な問題となるが,こ の参考図書の出版により,それが未然に防止でき,円滑なTAINS の運用が可能と なる。
(9) 1996年以降のTAINS 利用研究会にあった,以下のグループは終了しました。
ATMグループ, Cacheグループ, CSグループ, FTPグループ, IPグルー プ/MBoneグループ, 講習会グループ, Newsグループ, Solarisグループ

4 お礼とお願い

 ネットワークは計算機などを互いに接続するハードウェアや技術面に関心が集 まりがちですが,TAINS 利用研究会は,ユーザサイドからの積極的な提言や新技 術の開発への参加,並びに知識の共有と伝承が,活きたネットワークのために欠 かせないとの考えから始まりました。東北大学で,先進的な情報環境であるSuperTAINS が活用され,質的にも高いキャンパスネットワークが実現しているのは,TAINS 利用研究会に参加してきた多くの研究者の努力に依るものだと考えます。TAINS のユーザが積極的に自由参加して研究開発や自主的ルールの提案を行っているTAINS 利用研究会は,貴重な存在です。改めて,これまでTAINS 利用研究会に参加して いただいた皆さんに敬意を表し,これからも広く応援していただきますように, お願いを申し上げます。

参考文献

[1] 仁科辰夫,村松淳司,曽根秀昭:``東北大学のキャンパスネットワークに おける「TAINS 利用研究会」の活動'', SuperTAINS ニュース,No. 11, pp. 16-25
[2] ``TAINS 利用研究会の運営について'', http://www.tains.tohoku.ac.jp/documents/riyou/tains-riyou.txt
[3] http://www.tains.tohoku.ac.jp/tains-org-j.html


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