研究開発用ギガビットネットワーク(JGN)利用事例(1)

地域間相互接続実験プロジェクトの実験状況

総合情報システム運用センター 研究開発室 曽根秀昭
sone@tains.tohoku.ac.jp
 通信・放送機構の研究開発用ギガビットネットワーク(JGN)[1]を利用している本学の事例について,SuperTAINS ニュースで紹介していくことになりました。本稿では,「地域間相互接続実験プロジェクト」の利用事例について紹介します。

 JGNのような広帯域のネットワークを全国規模で利用できるようになれば,地域間の情報流通を促進させることができると考えられます。地域間相互接続実験プロジェクトは,国内各地で整備が進められているマルチメディア情報コンテンツや高速情報処理環境等の「情報リソース」を地域間で有効に交換・共有すること,そのためにCATV(ケーブルテレビ)等を用いた地域型高速アクセス技術を確立すること,および,大規模分散型の超高速バックボーンアーキテクチャの設計・構築・運用を行い,新技術を用いた経路制御技術の開発を行うことを研究課題として,JGNを利用した実験を行っています。このプロジェクトには,各地で地域ネットワークの研究に取り組んでいる麗澤大学,東京大学,名古屋大学,東北大学,通信・放送機構高知トラヒックリサーチセンター,富山地域IX研究会,山梨次世代ネットワーク研究会,ソフトピアジャパン,会津大学,福島県ハイテクプラザ,中国・四国インターネット協議会の研究者が参加しています。これまでに,秘密分散暗号化手法を用いた分散ディスクの実験,地域内の高速無線接続実験,MPLSを用いた相互接続ネットワークの実験などを行っていますが,ここでは,本学で行った実験に関して,最近の二つの話題を紹介します。

講演会中継実験

 超高速ネットワークを利用して,大容量の映像をやり取りし,全国各地で行われる講演会やイベントをライブ中継できるようになります。3月25日に行われた講演会中継実験では,全国初の試みとして,超高速ネットワークとCATVを連携させて,岐阜県大垣市のソフトピアジャパンセンタービルで行われた「21世紀の情報戦略」と題した新千年紀記念行事担当大臣 堺屋太一氏の講演を,高品位ディジタル映像で全国同時中継しました。この実験は,通信・放送機構,岐阜県,地域間相互接続実験プロジェクトが共同で実施しました。

 一般に放送番組は,東京などから通信衛星などにより全国一律に配信されるため,番組コンテンツ制作・発信が大都市に集中しがちです。この実験により,全国各地で制作される番組を必要とする地域へ配信する技術を確認し,地域情報の流通や制作会社の地方分散への道を開いて,地方分散型ネットワーク社会を提案しようとするものです。

 今回の講演会中継実験では,映像はDV(デジタルビデオ)で撮影され,ATM-IEEE1394リンクユニットによりATM方式で,JGNと「岐阜情報スーパーハイウェイ」へ送り出されました。JGNを用いた中継ネットワークでは,講演会場から送り出された映像のATMセルをネットワーク内のATM交換機でコピーして多地点へ伝送するATMマルチキャスト中継実験を行い,9地点へ配信しました。ATMネットワークの帯域保証機能により予約された帯域は,40Mbit/sです。岐阜県内ではさらに,この高画質映像を複数のCATVへ送り生中継する実験も行われました。ネットワークの構成を図1に示します。


図1: 講演会中継実験のネットワーク

 本学では,大型計算機センター内にある地域間相互接続実験プロジェクトのノードで,ATM-IEEE1394リンクユニットにより中継の配信を受けました。リンクユニットに接続したDVカメラで,評価用に信号を記録するとともに,通常のテレビ映像信号と同じNTSC信号に変換して,液晶プロジェクタで大画面で上映しました。この模様を写真1に示します。DVカメラの変換出力から得られる映像は一般のテレビ放送を上回る鮮明な画質のものであり,極めて臨場感の高い中継を視聴することができました。


写真1: 講演会中継実験の上映の模様

 以上で述べた全国的な実験に加え,本学では独自に,東北地域内インターネット相互接続研究会(TRIX)と東北文化学園大学,宮城ネットワーク(ケーブルテレビキャベツ)などの協力を得て,配信を受けた映像をさらに,地域の高速無線ネットワークとCATVインターネットを経て中継し,CATV放送のチャンネルに流す実験を行いました。超高速ネットワークを経て他地域から配信された映像素材をCATVの放送に使うのも,全国で初の実験です。


図2 CATVまでの中継実験のネットワーク

 この中継では,大型計算機センターから国見の東北文化学園大学まで2.4GHzの電波を使う小電力データ通信(約5.5Mbit/s)で送り,そこからCATVの送信所までCATVインターネットで送りました。ネットワーク構成を図2に示します。MPEG2などの伝送方式も試しましたが,使える帯域と品質の関係を検討した結果,RealVideo方式で映像を送ることとしました。このため,DVカメラのNTSC出力をRealProducerで符号化してCATV送信所内のRealServerへ送り,これを表示した画面をスキャンコンバータで再びNTSC信号に変換して,CATVの実験用チャンネルへ送出しました。この構成で,約220kbit/s(音声32kbit/s,映像15f/s)で伝送し,安定した伝送品質が得られることが確かめられました。講演の画面は動きが少ないために,また,使ったスキャンコンバータが画素数の不足を滑らかに補いつつ輪郭を強調する機能をもつものだったためもあり,CATVの放送を視聴した方から,実用性があるとの評価を受けました。

 以上で述べたように,今回の実験では,JGNの広帯域ネットワークとDV方式の高品位映像伝送装置や,無線ネットワークとCATVインターネットなどを複合的に応用し,地域間および地域内で映像中継が可能であることを実証することができました。

リングサーバ実験

 地域間での情報リソースの共有・交換の実験の一つとして,2月25日よりリングサーバring.tains.tohoku.ac.jpの実験運用を開始しました。このリングサーバは,Ring Project[2]の運用するファイルサーバの集合体の一部を構成するミラーサーバになっています。構成を図3に示します。このサーバは,大型計算機センターの「研究情報ライブラリシステム」のファイルサーバの一部を大容量ファイルサーバ (400GB) として使って,構成しています。現在のところ,IMnet経由でミラーリングを行い,また,地域間相互接続実験プロジェクトの実験として他のミラーサーバと広帯域回線(50Mbit/s)で孫接続を行っています。上位サーバからのミラーリングは回線帯域いっぱいの2Mbit/sで行われ,孫接続側の転送はほぼ10Mbit/s程度で推移しています。今後,他の情報リソースへの適用や,転送・共有方式の実験などの計画があります。


図3: リングサーバのネットワーク構成

 リングサーバは多くのミラーサーバが同じ内容をもち,これらが分散してサービスを提供し,ベクター社のSoftware Pack,窓の杜,Winsiteなど国内外の著名なソフトウェアライブラリの複製(ミラーリング)や,Ring Serverプロジェクトのメンバーが独自に開発,収集したプログラムを公開しています。

 このミラーサーバは,地域間相互接続実験プロジェクトとRing Projectの実験の目的で運用しているため,随時運用を停止したり変更することがあります。また,JGNの運用が終了する平成16年3月以降の運用の計画はありません。ring.tains.tohoku.ac.jpについての問い合わせは,ringadmin@ring.tains.tohoku.ac.jpへお送りください。

参考文献

[1] 通信・放送機構 ギガビットセンター:``研究開発用ギガビットネットワーク通信回線の利用について'',SuperTAINS ニュース No.20, pp.4-12 (1999), (http://www.tains.tohoku.ac.jp/news/st-news-20/0412.html
[2] http://www.ring.gr.jp/index.html.ja


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